🔥 第1章:天河の火に出会う
その後、わたしは天河大辨財天社で、護摩焚きの火と出会いました。
張り詰めた静寂など、どこにもない空間。
太鼓の重低音が腹の奥へ響き、真言を唱える声が森へ抜け、
修験者たちが火のまわりを慌ただしく動きながら、次々と護摩木を投じてゆきます。
巻き上がる煙、天へ昇る朱赤の炎。
その中心で、何百年も前から続いてきた祈りのうねりが渦巻いていました。
その熱と響きの中で、わたしの中の「火中の栗」が姿を変えはじめたのです。
その火は、単なる“熱”ではありませんでした。
それは、恐れや痛みに張りついていた心を、力強い真言と共に解き放つ火。
それは、身も心も巻き込みながら、「再生の芽」に変えてゆく火。
その瞬間、わたし自身がほんの一瞬、「ただのわたし」に還ることができたのです。
「火中の栗を拾わなくてもよいのですよ。」
そう告げる声が、真言の響きと太鼓の合間から、どこからともなく、確かに聞こえたのでした。
それは、天河の神様の声なのか、わたし自身の奥から湧き出た声なのかわからないまま、
ただその言葉だけが、火の粉となってわたしの心へ舞い降りたのです。